想い

2025.12.08

慢性期医療における流動食の変遷~地域医療と共に歩んだ四半世紀~

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1999年に当院に赴任し、慢性期医療に深く関与するようになってから、四半世紀が過ぎました。当時は経管栄養を必要とする患者さんの多くに鉄剤が効かない小球性貧血が見られ、その原因を探る中で、流動食に銅が未添加であることに気づきました。血清銅値を測定すると著しく低下しており、銅欠乏による貧血と判断しました。銅を多く含むココアを流動食に混和して対応する施設の存在を知ったことも、今でも印象に残っています。

2000年には食事摂取基準が改訂され、鉄だけでなく銅・亜鉛・セレンなどの必須微量元素が明確に位置づけられ、年齢ごとの推奨量も策定されました。これにより銅含有流動食が製品化され、銅欠乏性貧血は大幅に減少しました。しかし、銅と亜鉛の吸収拮抗作用が問題となり、亜鉛欠乏による創傷治癒遅延が褥瘡対策の現場で課題となった時期もありました。摂取基準の改定を重ね、現在では貧血を防ぎつつ亜鉛値にも影響しないバランスが確立されています。

流動食はミネラルだけでなく糖質・脂質・タンパク質などの栄養素も改良され、糖尿病や腎障害など多様な疾患に対応できるようになりました。当院のように長期療養を担う施設では、こうした進化が患者さんの生活の質を支える大きな力となっています。

そして今、地域医療の拠点としての当院も新たな一歩を踏み出しました。病院の建物は全面的に改築され、明るく清潔で快適な環境が整いました。患者さんやご家族にとって安心できる空間であることはもちろん、働くスタッフにとっても誇りを持てる職場となっています。地域の皆さまに「ここに来てよかった」と思っていただける病院であり続けるため、私たちはこれからも医療の質と環境の両面で進化を続けます。

四半世紀前、銅欠乏性貧血に悩んだ日々から、今では栄養管理の精度も飛躍的に向上しました。しかし、医療の課題は常に変化します。これからも地域に根ざし、患者さんの健康と笑顔を守るため、さらなる栄養管理の工夫と医療の質向上に取り組んでいきたいと思います。

Profile

医療法人社団 京浜会 京浜病院

副院長 志越 顕

昭和36年生まれ
昭和55年 駒場東邦高等学校卒業、東邦大学医学部入学
昭和61年 東邦大学医学部卒業、医師国家試験合格 平成3年  東邦大学大学院医学研究科修了、東邦大学医学部付属大森病院第一内科学講座入局
平成11年 京浜病院内科部長
平成15年 京浜会・京浜病院副院長 現在に至る
○ 医学博士号
○ 東邦大学医学部・客員講師(令和4年まで)
○ 東邦大学理学部・非常勤講師
○ 総合内科専門医
○ 日本臨床栄養学会指導医
○ 日本臨床栄養協会評議員
○ 日本感染症学会インフェクション・コントロール・ドクター
○ 大田区褥瘡対策研究会世話人
○ 元、和洋女子大学家政学群客員教授
○ 介護支援専門員実務研修受講試験合格(1999年度)